損保システムコンサル&芸術・文化サロン

サイトマップ

冊子 アート市民たち

『画廊の一隅から』      谷川憲正

Ⅱ巻頭寄稿・・市民派アート活動にエールを

  人生は、合縁奇縁とはよく言ったもので、人との出会いは実に不思議で楽しいものです。古い友人であるにもかかわらず、どうしてもしっくりと理解し合えない人がいるかと思えば、なんだかつい最近知り合ったばかりなのに、やけに意気投合したりすることがあります。市民派アートコレクターズクラブの山下透様との出会いは、まだ、一年も経っていない。なのに随分と以前からの面識があったように思えてしかたがない。

 私の前身は美術雑誌の編集である、で、画廊の空間に訪れてくれた方々の佇まいで、その人となりを以外と感じとったりするものです。と言うのも、私共の画廊は誰もが気取らずに入れる空間で、“版画に市民権を!”と言うのが画廊設立のコンセプトです。ではなぜ、そう言う発想になったのかといえば、編集の頃、上野の公募展を開館前の2~3時で取材をするのですが、10時になると全国から団体展を見学にやってくる奇特な学校もあるのです。ところが、きまって、先生から、観賞する前に“お言葉”があります。「厳しい審査の末、全国から集まった作品をしっかりと鑑賞(・・)しなさい…!」その言葉が発せられると、遠足気分の生徒達に緊張が走り、順路どうりに従ってのおごそかな鑑賞(・・)が始まるのです。この光景とよく似た経験をしたことがあります。それは、初めての海外取材でヨーロッパへ行ったとき、旅行会社の方の過剰なまでの忠告に海外出張の高揚した気分がいっぺんに緊張に変わったことを思い出すのです。広い公募展の会場で先生は生徒たちへこう言えないものかと…。「沢山の絵がありますが、自分でいいと思う作品を1点」いや1点選ぶことが難しかったら、「好きな作品を3点探してきてください。」と…。

 色々な体験から学び、私共の画廊は常時200点ぐらいの作品を自由に手に取り、触れるようにしています。そんな空間に山下さんがふらりと立ち寄ってくださいました。多くの作品の中から、どの作品に視点がいき、作品とどう対峙されるのかでその方の個性が理解されます。山下さんの絵に対する思い入れと見識はすぐに伝わってきました。少しの立ち話の後に、市民派アートコレクターズクラブの紹介があり、その話の内容は、すぅーっと心を打った。市民派コレクターの皆様が目指す社会貢献と、版画に市民権をと言うコンセプトが共通する部分があるのではと感じたからです。

 神保町の冨山房ビルの地下にある喫茶店・フォリオでコーヒーを飲みながら2~3度、雑談をしたことがあります。話の中に何度か欧米人と日本人の美術への係わり方の違いを口にされた、私も同感だと思う。美術にかぎらず音楽、演劇、その他、芸術文化に理解のない人は有能なビジネスマンとは認めてもらえないのが欧米です。ところが、我が国では、美術の話をしようものなら、今はやりの言葉で言えば“空気が読めない”とばかりに、その場が白けてしまった経験をされた方がこの市民派コレクターの中にもいらっしゃるのでは…。

 美術雑誌の前に、出版社の社長の意向で、政治、経済、文化(美術)で活躍する人々を結びつけるための総合雑誌の編集に携わったことがあります。若い編集者3人は、これは面白い雑誌になるぞ、するぞとそれぞれの得意分野で熱く燃え、社の応接室に泊まり込み原稿を書いた。今、想えばこの老社長は異なる分野の交流をはかり、文化へのサポートをもくろんでいたのだと思えるのですが、しかし、残念ながら2年で廃刊になってしまった。それでも当時の政治、経済で活躍する方々は美術への造詣が深かったように思う。少なくとも今ほどではない。日本はバブル敗戦で、またしても、国の方向性を無くし、個人のバランス感覚を失ってしまったかのようです。

 ここで、海外のコーポレートアートを紹介したい、チェースマンハッタン銀行がこの事業に乗り出したのは世界大戦のすぐ後で、当初の年間予算は一億円たらず、この会社の規模からすれば、僅かな出資でしかありませんでした。しかし、日本の企業と違うのは、社内に専門のキュレーターを育成することから、この事業を前進させるのです。そして、継続は力なりと70年近くも経た今、このプロジェクトがもたらす社会的貢献たるや、市民派コレクターの皆様ならすぐご理解いただけると思います。

 日本の場合、この経済敗戦の後、国ならび企業の指導者は、会社の贅肉を切れとばかり、仕事をシェアーすることが常識なのだそうです。もともと、日本のコーポレートアートは外注が多く、企業が経済不振にでもなろうものなら、一番先にカットされ、これでは文化など育つはずもないのです。今、美術業界を支えているのは、個人のコレクターであり、企業の美術へのサポートなど微々たるものであると思う。

 山下様の活躍を、新聞コラム“市民派コレクターたちの挑戦、趣味と社会貢献の合体”で読んだことがある。この活動が目指すものは要約すると、コレクターと言う個人の力を社会の中でどう展開できるかが大きなテーマだと思える。氏は美術と個人の係りもさることながら、さらにその関係を社会の中にどう生かし、位置づけていくかを常に考えておられるのでは、そして、個人の力が行政を動かす力になって欲しい。市民派コレクターの会が大きな流れに成長し、社会の運動となることを心よりお祈りしております。

                            

  ( 海画廊 代表 )

       

Ⅱ巻頭寄稿