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冊子 アート市民たち

『 “市民派”への思い 』     太田信之(蓼和之)

Ⅱ巻頭寄稿・・市民派アート活動にエールを

 「市民派アート活動」の意味を考える時、歴史上古代と近代の2種類の「市民」が思い浮かびます。古代ローマの市民は、普段は自分の土地を耕して小麦などを作りながら、ひとたび戦争となると(建国の時から絶えず周辺国と紛争)、兵士となって国を守る義務を負う成年男子でした。政治経済的な自立と責任を伴う市民の原点です。従って芸術的な創作活動のようなものは、多くはギリシャ人の奴隷が行っていました。(奴隷といっても市民権が無いだけで、ギリシャの教養や技能には敬意が払われ、家庭教師など家族同然に同居しています)。ローマの家は石やレンガで構造が作られ、現在のように様々な家具インテリア小物が無く壁一面に風景画が描かれていたようです。これは古い日本の屏風や襖の絵のような効果がありますが、内容は銭湯の富士山くらいかもしれません。彼らが現代の家を見たら物置と間違えるのではないかと塩野七生さんが「ローマ人の物語」に書いていますが、公共の広場や建物(公共施設の建設にローマはきわめて熱心でした)は美しく飾られて、美術を共有化していた時代と言えるかもしれません。

 次に、近代の市民は、政治経済宗教の既存体制からの自立を目指した市民階級として登場しました。王侯貴族や教会に対抗して、勤勉な労働で築いた経済力と自由な精神を基に生まれた市民、今の私たちもその延長線上にいます。しかし、この近代的な市民の原型は、今いささか危うい状態に陥っています。現在の市民は、勤勉さを通り越して経済至上的になってしまいました。個々人の自由が欲望を際限なく拡げてしまい、公共的な価値も見失いそうになっています。人々の望むものは、利益の拡大を目論む企業などの他の人々によって意図的に作り出されてもそれと気付かず、本当の精神的自由を失いかけています。経済至上主義は新しいものを次々に作り出すために、常に新規性を求めて(往々にして個性的と評価されて商品価値が増します)、伝統的な善いものを忘れがちになっています。そう考えると、私たちの市民的なアート活動も、このような風潮に染まらずに、しっかり自律した市民であろうとすることをベースにしたいものです。

 私は現在、NPOを作って、地元の身近な職人たちが、近隣の森から切り出した材木を使い、伝統的な技術を生かした「住まい造り」の普及活動に携わっています。住宅は、これまで、新しい工法やデザインを競い合って、そのために余分なコストをかけて商品化され、一方で職人は手間代を切り下げられてその技術が報われていません。むしろ技術の要らないように工場で大量に生産して、そのための設備や宣伝に大きな費用をかけてそれを建て主に負担させていました。しかし、良い住まいは職人が額に汗して作り込むもので、商品化のための余分な費用は彼らにこそ払わなければなりません。従って、これからは職人と依頼主が共同して中間の無駄を省き、かかった費用を透明にした正直な家作りが必要です。また、一人ひとりが自分の好みのデザインを好き勝手に追及して、街全体の景観を損ねています。わが国の町並みは、まるで子供の雑多なおもちゃ箱のようだといった外国の建築家がいますが、これに対しては、公共の価値を共有していこうとする考え方が必要です。共有された本当に価値のあるものは長い歴史に耐えて、伝統となっていくのでしょう。私は趣味(道楽?)で三味線、小唄のお稽古に通っていますが、伝統的な邦楽に親しむことから、逆に、失われつつある日本文化がよく見えるようになりました。現在使われない様々な色(浅黄色は緑がかった青)や、季節の言葉をもつ繊細な感性に感嘆し、唄の意味が分からず古語辞典を引く困った現代日本人ではあります。

 アートの分野に話を戻しましょう。ここでも住まい造りにおける問題と同じような事柄が言えるかもしれません。これまで私が参加した市民派アート活動の中で、作家の方を囲んでの懇談会は、とても面白いものでした。ちょうど職人と建て主の対話と同じで、作り手と受け手の直接的対話は意義深いものがあります。

 また美術館めぐりも好いものです。公共の財産をもっと拡げるべきなのです。(願わくば、美術館の中の作品だけでなく外の街並み全体の美観へと続いて欲しいのですが)個人のコレクションには、経済的に限界があります。又、欲望はどうしても拡大して、欲しいものは際限がなくなってきます。従ってここでは所有欲をほどほどにして、持たざる自由ということを考えています。(余裕に乏しいことの言い訳、強がりのようですが)コレクションとして、たびたび出会うことも良いでしょうが、沢山のアートに一度だけ、一期一会の心で触れる、そんなあり方もあって良いのではないでしょうか。

                

(早稲田ロジスティクス研究所講師)
(NPO建築市場研究会事務局長)
(蓼派小唄玉和会幹事)

      

Ⅱ巻頭寄稿